鳥類の中でもセキセイインコが好発鳥種となる腫瘍(がん)です。その治療は非常に難しく、進行してしまった場合の予後は、残念ながらあまりよくありません。
鳥類の精巣腫瘍の治療方法は、大きく3つあります。
①外科的摘出(手術):唯一、完治が目指せる治療方法です。腫瘍化してしまった精巣の完全摘出を目指します。しかし、手術はかなりの高難易度であるため、初期であってもリスクが高い治療方法です。なお、国内で精巣腫瘍の手術ができる獣医師はごく限られています。(※現在当院では実施不可)
②抗がん剤:外科的治療を除けば、内科的治療では最も積極的な治療です。外科的治療と異なり、腫瘍を完全にゼロにすることは抗がん剤では不可能です。腫瘍ができる限り悪さをしないように抑え込む、縮小を目指すのが現在の鳥類の抗がん剤での治療となります。小型鳥における抗がん剤投与による治療はまだまだ始まったばかりで治験が少ないのが現状ではあります。腫瘍化した精巣が著しく縮小した例もありますが、抗がん剤が効かずに腫瘍がさらに拡大してしまったり副作用が大きく発現してしまうこともあります。本来抗がん剤の使用については、腫瘍を一部摘出して腫瘍の種類を特定し、抗がん剤感受性試験にてどの抗がん剤が最も有効であるのか検査する必要があります。しかし、それには手術が必要となることから、現行では経験上有効な抗がん剤を試験的に投与する治療方法となります。
③緩和治療:手術や抗がん剤といった積極的治療ではなく、対症療法となります。進行時は腫瘍があることで起こってしまっている炎症をステロイド等で軽減したり、周囲臓器の圧迫に対する対応(胃腸機能補助)をします。エストロゲンの作用によるホルモン依存性の腫瘍拡大を抑制を目指してホルモン剤や漢方を投与することもありますが、腫瘍縮小効果が認められることは多くありません。また、腹水(腸腹膜嚢水)や嚢胞水が貯留してしまう場合には、適宜抜水処置をすることで圧迫軽減を目指すこともあります。
病気の進行度にもよりますが、これら治療方法をご提案し、飼い主様とご相談しつつ治療に臨んでいます。
なお、哺乳類の腫瘍治療においては、放射線治療が挙げられますが、現在鳥類、特に小型鳥類での導入はほぼ行われていません。大型鳥の腫瘍では放射線治療を実施した例が報告されています。獣医療が発展すれば、今後鳥類でも放射線治療が選択肢の一つになるかもしれません。