手術症例:卵塞(卵圧迫排出処置不可の場合)

何度か産卵したことがある7歳のセキセイインコが来院しました。発情抑制には努めているが、発情が強くなかなか産卵を食い止めることができないとのことでした。触診にて卵殻はあるが形成途中と思われる卵を触知しました。超音波検査にて卵管内に卵があり、卵殻形成中であることが確認できました。卵白形成のやや不十分さはありましたが、骨盤がしっかり開いていたことと今まで産卵ができていたことからこのまま卵殻形成が終われば産卵すると考えられました。超音波検査はこのような状況を判断するために実施することがあります。

セキセイインコは卵管内で卵を形成する過程で、卵殻形成されてから24時間経過しても産卵しなければ卵塞(卵詰まり)の可能性が高いです。そのため、もし1日経過しても産卵しなければ来院するようにお伝えしました。

2日後、まだ産卵していないとのことで来院しました。2日前に開いていた骨盤が少し閉じており、形成された卵は卵管の上部(卵管膨大部~峡部)に移動してしまっていました。何とか卵圧迫排出処置を試みましたが、卵は産卵前に降りてくるはずの卵管子宮部~膣部に降りてきませんでした。また、圧迫処置に加えて本人の腹圧から卵は割れてしまいました。手術で摘出することになりました。

術前バリウム造影検査(消化管の走行を確認するためにバリウム造影しています)

開腹(皮膚切開、腹筋切開、肝後中隔切開)したところ、卵はさらに卵管内を逆流し、卵管の入り口である卵管漏斗部から体腔内(おなかの中)に落ちてしまっていました。体腔内に落ちた卵と卵材を摘出しました。これらは体腔内では異物扱いです。異物に対する炎症反応で腹膜炎を起こさないように体腔内を生食加中性電解水でしっかり洗浄しました。術後は抗生剤の内服です。卵管摘出も検討しましたが、さらに骨盤は閉じ、卵管は縮んでしまっている状態でしたので卵管摘出は実施せず閉腹しました。

術後に卵管内に蓄積していた血餅の排出はありましたが、術後経過はよく、退院しました。この子の卵管の状況から、おそらく年齢が上がってきていたり産卵を繰り返していたことから卵管機能が低下してしまっているものと考えられました。再度発情し卵を作ってしまった場合は詰まってしまったり、正常な卵が形成されない可能性が高いです。今後は発情抑制のための食事制限や環境改善はもちろんですが、定期的な発情抑制剤の投与で発情をコントロールしていく必要があります。今回は長期作用型の発情抑制剤であるリュープリンproを投与しました。この薬で発情をしっかり止めている間に、発情をしっかり止めることができる食事と環境を整えていけるサポートができればと考えています。