手術症例:腹壁ヘルニア

鳥のメスは産卵前に卵を体腔内の卵管内にて形成します。卵が形成されるにつれて体腔内は通常の容積では狭いため、発情すると腹筋が緩くなることで卵があっても苦しくならないほどに体腔の容積を広くとれるようになります。そんな発情と産卵を過剰に繰り返していると、緩んでしまった腹筋が破れてしまい、通常であれば腹筋内(その下層の肝後中隔内)に位置している消化管などが腹筋(および肝後中隔)の外に脱出してしまうことがあります。この状態を腹壁ヘルニアと言います。

こちらは腹壁ヘルニアのセキセイインコのお腹です。今まで発情抑制がうまくいかず産卵を繰り返していたことから発症しました。元気はあるがお腹が大きいとのことで来院しました。腹壁ヘルニアはお腹は大きくなりますが無症状のこともありますが、消化管などが脱出してしまっていることから排便障害、そして皮膚が過伸展したり脂肪の沈着があることで皮膚の脆弱化(黄色腫化)を引き起こしてしまいます。腹筋が収縮し、脱出している消化管をしめつけてしまうと胃腸が縛られてしまい(消化管絞扼)、急変することもあります。

腹壁ヘルニアを治す方法は手術しかなく、内科的にはできうる限りのコントロールはできても完治することはできません。消化管絞扼のリスクが常にある状態となってしまいます。

レントゲン・バリウム造影検査:消化管の位置を確認。腹筋を破って脱出している消化管(十二指腸~回腸)がヘルニア嚢内に認められる。

手術ではヘルニア内に落ちてしまっている消化管などを体腔内に戻す必要がありますが、奥の卵管を摘出しないと消化管が戻せません。まずは卵管摘出です。本症例は手術前も発情しており、卵が卵管内で形成途中でした。卵管切開することで形成途中の卵をまずは摘出、アプローチしやすくなった卵管を半導体レーザーを駆使することで卵管間膜凝固切開、卵管摘出しました。

体腔内の容積が確保できると、脱出している消化管を体腔内に戻します。注意点はぎゅーぎゅーにしすぎると苦しくなってしまいます。呼吸を妨げないように注意しながら消化管を戻し、破れた腹筋と肝後中隔を非吸収糸で縫合、皮膚を吸収糸で縫合して終了です。

手術前のお腹(左) 摘出した卵・卵管(右)

消化管の機能が戻るように術後管理し、経過良好。退院しました。

卵管摘出していますが、卵巣は残っています。卵管がなくても発情することでもし卵巣から排卵されたら受け止める卵管がないので体腔内に落ちてしまうことがあります。そのための予防として発情抑制が必要です。今回は長期作用型リュープリンを皮下注射し、現在は発情抑制のための食事制限をはじめているところです。