手術症例:卵巣腫瘍摘出術

他院にて原因不明腫瘍と診断されたオカメインコです。手術や抗がん剤は提案されていませんでした。4ヶ月の間、提案された緩和治療をしてましたが悪化したため当院へセカンドオピニオンで来院しました。かなり進行した卵巣腫瘍でした。レントゲンや超音波検査の所見から、卵管蓄卵材症の併発もあるようでした。呼吸や排便がしづらくなるほど状態は悪く、内科治療である抗がん剤や緩和療法での改善はきびしい状態・・・。飼い主さんと相談し、リスクはありましたが救命のため手術での摘出を試みました。

来院時の様子:呼吸排便困難から翼下垂

超音波検査所見:卵管と思われる臓器内に多数の低~中エコー性貯留物、体腔奥に実質性腫瘤が認められる。

手術前のレントゲン・バリウム造影検査:腫瘤に圧迫されて腺胃および筋胃をはじめとする消化管の頭側変位、卵管結石様陰影が認められる。 

通常のオカメインコのバリウム造影は2時間で消化管の全長を確認できますが、このオカメインコはかなり大きな腫瘍で周囲の消化管が圧迫されていることか排便障害を呈しており、バリウム造影検査にて消化管を確認できるまで18時間もかかりました。

開腹(皮膚切開、腹筋切開、肝後中隔切開)すると、体腔内には卵管蓄卵材症が進行しすぎて卵管内が大量の壊死物で満たされていました。体腔の奥に卵巣腫瘍がありましたが、まずは卵管の摘出を試みました。

卵管を切開すると腐敗した卵材の成れの果て(卵管結石含む)が大量に確認できました。壊死物による異物反応からの腹膜炎にならないように体腔内は生食加中性電解水で洗浄を繰り返しながら壊死物の除去を進め、その後はすでに機能しなくなっている卵管を半導体レーザーにて卵管間膜を凝固切開して出血を最小限にすることで摘出しました。
続いて、卵巣腫瘍へのアプローチを試みました。通常の卵巣は腎臓や脊椎近くに位置しており、摘出することはできません。実質性に腫瘍化しており卵巣靭帯が伸びていたことから摘出を考えることができました。腫瘍は一部腹膜に癒着していることから全てを摘出することはできませんでしたが、バイポーラとヘモクリップを駆使することにより出血させることなく肉眼上は95%を摘出することができました。

摘出した腫瘤

閉腹後、術前103gの体重が術後73gになるほどの大きな病変の摘出から腹圧の変化によるショックが懸念されました。ラクトリンゲル0.5ml×2を筋肉内注射することで血圧変動の緩和を目指し、その後も呼吸状態に注意しつつ皮下注射や強制給餌での術後入院管理、胃腸機能の回復をさせていきました。
手術した当日の夜には歩き回るほど状態は改善し、1週間で退院としました。現在通院治療中です。

摘出した病変は病理組織検査の結果、卵巣腺癌であることがわかりました。発生の仕方や肉眼所見からも悪性腫瘍である可能性が高かったので一部の組織は効果的な抗がん剤を特定するための検査(抗がん剤感受性試験)をしています。術後アジュバンド化学療法は鳥では知見が少ないので犬猫とは違い適応時期は難しいのですが、ほぼ摘出できていることから術後すぐの抗がん剤投与はせず、今後の再発に備えて定期チェック、再発や拡大傾向が認められた場合は抗がん剤投与を検討していく予定です。

退院時の様子:術部を全く気にしないことから本症例ではエリザベスカラーを装着していませんが、術後はエリザベスカラーを装着することが多いです。

今回は幸い何とか手術が成功し助けることができましたが、進行した腫瘍摘出はリスクがさらに高いです。数十年前は緩和治療しかありませんでしたが、現在は鳥も手術や抗がん剤が検討できるようになっています。腫瘍の種類や進行度、鳥の状態によってリスクや有効性はさまざまですが、進行する前であれば手術や抗がん剤をより積極的に検討できることもあります。鳥の腫瘍(がん)と戦うにあたって、どんな病状でどんな治療があるのか、しっかりと相談や提案できる鳥の獣医師でありたいと思っています。今後も腫瘍に臆することなく、鳥とともに立ち向かっていきます。